レクリエーション保険のこと

屋内イベントのリスキーな側面と、そのとき役に立つ資料集

小規模の室内イベントにまつわる危険性と留意点を押さえ、万が一に備えることの必要性について解説

屋内イベントのリスキーな側面と、そのとき役に立つ資料集

一般的に屋外のイベントは熱中症などのリスクが高いという認識が浸透していますが、実は武道やスポーツなどの室内競技大会、あるいは文化祭や習い事の発表会など、屋内のイベントにもリスキーな側面があります。

また、慣れないステージで躓いたり、大道具に衝突したり・・・。

さらに、お弁当由来の食中毒も生じるおそれがありますし、運悪く災害に見舞われないともかぎりません。

しかし、だからといってレクリエーションのような楽しみを手放すのはもったいないことです。

小規模の室内イベントにまつわる危険性と留意点を押さえ、万が一に備えることの必要性について解説します。

100%の安全はあり得ない

スポーツやレクリエーション活動では、「今までは何ごともなく無事に活動をしていたから、これからも大丈夫だろう」と考えるのは危険です。*1:p.1

アメリカの損害保険会社の安全技師が労働災害の事例を分析し、事故の教訓として、

「1件の重大災害(死亡・重傷)が発生する背景には、29件の軽傷事故と300件のヒヤリとした体験が控えている」

と発表しました。 *1:p.9

危険は案外、身近に潜んでいるのです。

万が一の場合は?

図1の左図は、「ドリンカーの生存曲線」と呼ばれるもので、呼吸が停止してから蘇生できる確率を時間ごとに表した曲線です。*2:p.16

また、右図は、「カーラーの救命曲線」と呼ばれるもので、命の危険のある心臓停止、呼吸停止、多量出血別に、時間経過ごとの死亡率を表したものです。*3:p.69

図1 ドリンカーの生存曲線(左図)とカーラーの救命曲線(右図)
出所)左図:財団法人スポーツ安全協会「なるほどイベント・大会主催者のためのワンポイントアドバイス 運営体制づくり」p.16
https://www.sportsanzen.org/about_us/grjkkl0000000f3g-att/grjkkl0000000fa2.pdf
右図:日本スポーツ協会「緊急時の救命処置」p.69
https://www.japan-sports.or.jp/Portals/0/data0/publish/pdf/h25attext8_p67_82.pdf

図1 ドリンカーの生存曲線(左図)とカーラーの救命曲線(右図)
出所)左図:財団法人スポーツ安全協会「なるほどイベント・大会主催者のためのワンポイントアドバイス 運営体制づくり」p.16
https://www.sportsanzen.org/about_us/grjkkl0000000f3g-att/grjkkl0000000fa2.pdf
右図:日本スポーツ協会「緊急時の救命処置」p.69
https://www.japan-sports.or.jp/Portals/0/data0/publish/pdf/h25attext8_p67_82.pdf

救急車の現場到着・病院収容にかかる時間

一方、入電から救急車が現場に到着するまでにかかった時間は、2021年の全国平均で約9.4 分でした(図2)。*4:p.6

図2 救急車の現場到着までの所要時間と病院収容所要時間の推移
出所)総務省「「令和4年版 救急・救助の現況」の公表」p.6
https://www.fdma.go.jp/pressrelease/houdou/items/99d90c98874f6d85cb4792eeab90ec1533d340b9.pdf

図2 救急車の現場到着までの所要時間と病院収容所要時間の推移
出所)総務省「「令和4年版 救急・救助の現況」の公表」p.6
https://www.fdma.go.jp/pressrelease/houdou/items/99d90c98874f6d85cb4792eeab90ec1533d340b9.pdf

また、入電から医師引継ぎまでに要した時間は、全国平均で約42.8分です。

したがって、重大な事故が起こった場合、救急現場に居合わせた人は救急車が到着するまでの間になんらかの心肺蘇生法を行い、疾病者の救命率を高める必要があります。

このように、事故が起こらないように注意しつつ、もしものときの対策を講じた上でレクリエーションを楽しむことが必要です。

室内競技大会

財団法人スポーツ安全協会が発表しているガイドブック「なるほどイベント・大会主催者のためのワンポイントアドバイス 運営体制づくり」には、競技大会を開催、運営する際のさまざまな留意点が挙げられています。

それは、翻ってみると、それだけの危険性があるということに他なりません。

同ガイドブックに沿ってみていきましょう。

宿泊施設

競技大会のために宿泊する施設にも危険が潜んでいます。*2:pp.4-5

慣れない施設では、たとえば、階段から落下したり、浴室で滑って転倒したり、窓から転落したりという思わぬ事故が起こるおそれがあります。

また、火事や地震が起こらないとも限らず、その際の緊急避難経路が不明であったり、非常口が表示されていない、あるいは消火器がどこにあるかわからないなどの不備があると、万が一の場合、被害が大きくなってしまうかもしれません。

さらに、食事、トイレ、風呂、寝具の衛生状態が悪いと、食中毒やアレルギーなどを引き起こすおそれがあります。

たとえば、ハウスダストが喘息やアトピーを誘発することもありますし、食中毒のおそれもあります。

以上のことを想定して、前もって危険な箇所がないか下見をし、施設側に確認しておくことが大切です。

利用施設の補修・メンテナンス

設備や道具を利用するスポ―ツは多いのですが、それらに不備があったり、安全性を備えていないと、それが原因となって事故が発生することがあります。*2:p.7

例えば、2009 年4月に静岡県営の体育館で、電動折畳み式のバスケットゴールを操作したところ、突然支柱の接合部が外れ、操作をしていた人が折れ曲がった支柱に首を挟まれるという痛ましい死亡事故が起きています。

施設側と連携して、安全対策に不備がないかあらかじめ検討しておくことが大切です。

気がかりなことを見逃さない

事故は、いつ何時起こるか予測できないものの、事故の前には前兆事例があるものです。*2:11-12

スポーツ活動中に思わず危ないと感じて、冷や汗が出たような出来事や、何らかの拍子にハッとして慌てた出来事などは、いつか大事故につながりかねない危険の兆しですから、見逃さずに、対策を立てることが大切です。

考えられる原因には以下のようなものがあります。

  • 心理的なもの(状況判断での焦り、疲れによる注意力散漫など)
  • 体力的なもの(体力や経験不足による疲れなど)
  • 体調的なもの(緊張による心身の不調、風邪など)
  • 活動環境によるもの(人数に対して狭・広すぎるなど)
  • 指導者の問題によるもの(指導の不足や誤り、連絡ミス、人数不足など)
  • 利用施設によるもの(老朽化、構造上の欠陥、器材の点検ミスなど)

筆者も子どもの剣道大会でヒヤっとした経験があります。

総当たり戦で何回か試合を繰り返すうちに、子どもが試合中にうつらうつらし始めてしまったのです。

その日は朝食もきちんと食べさせて会場に向かったのですが、おそらく普段に比べて運動量が多すぎて低血糖になってしまったのではないかととっさに判断しました。急いで持参していたキャンディーを頬張らせてことなきを得ましたが、それまでそのような経験がなかったため、予想外で、大いに焦りました。

このようにヒヤっとしたことがあったら、それ以降はそうならないための対策を講じることが必要です。

室内イベントに潜む危険性

次に室内イベントについてみていきましょう。

大学生の展示が招いた事故

2016年、東京・明治神宮外苑のイベント会場で木製のジャングルジム型の提示作品が燃え、中で遊んでいた男児が死亡し、男児を助けようとした父親もやけどで重傷を負うという痛ましい事故が発生しました。*5

照明は元々、作品の一部としてLED電球だけが設置されていましたが、出火当時は白熱球を使った投光器が置かれていました。出展者の学生2人は「ライトアップを際立たせるためにその場のアイディアで置いた」、教員は「指導監督をしていなかった」、主催者側は「作品の管理は学校側が行うべきだ」などと話していたといいます。

この事故では、出展者の学生2人が重過失致死傷容疑で、指導教員とイベント主催者側ら4人が業務上過失致死傷の疑いで書類送検されましたが、2021年7月、裁判長は「わずかな注意を払えば火災を十分に予見できた」として、学生2人に禁錮10カ月執行猶予3年(求刑・禁錮1年)の判決を言い渡しました。*6

このようにあまり危険性が感じられない室内のイベントであっても、不注意や不運が重なると、思わぬ事故が生じる可能性があります。

文化祭に潜む危険性

学校の文化祭も安全とは言い切れません。

文化祭では模擬店やお化け屋敷、テーブルマジック、科学系クラブのデモンストレーションなどさまざまな展示やパフォーマンスが行われます。*7

しかし、通路にガムテープで電源のケーブルが貼り付けてあったり、通常の照明に色セロファンをかぶせてあったり、ビニール製のドームを作り配線が露出した手作りのプラネタリウムを上映したりすることもあるようです。

社会一般では人が集まる施設に対しては、事故防止の観点から相当厳しいルールが設定され、監査が行われていますが、学校の文化祭などにはまだまだリスクマネジメントが十分ではないケースがあります。

家族や友人などが来訪し、華やいだ雰囲気の文化祭にも、危険性が潜んでおり、思わぬ事故に遭遇することがあるのです。

お稽古ごとの発表会も危険がいっぱい

ピアノやバイオリンなどの楽器演奏、合唱、演劇、ミュージカル、バレエやダンスなどお稽古事の発表会にも注意が必要です。

ステージはいつも練習している場所とは違う、慣れない場所です。また、大道具や小道具を使い、字幕やパネルやスピーカーを吊り下げたり、照明を消す「暗転」などの演出を凝らす場合もあります。

劇場等演出空間運用基準協議会の「劇場等演出空間の運用および安全に関するガイドライン」には、公演のための安全作業についてこと細かに注意点が指摘されています。

指摘されている注意事項はプロフェッショナルの作業者に向けたものですが、どれか1つミスがあっただけでも、事故が生じるおそれがあります。

それらは大まかにいうと、機材や大道具の落下・転倒防止、電気関係・危険物の扱い、緊急時の避難などに関することです。*8:pp.42-58

それらの措置が万全であったとしても、慣れないステージ上では、大道具や機材にぶつかったり、幕に巻き込まれるなどの事故が起こるおそれがあります。

誤配線や接続端子の緩み、傷付いたケーブルや不良機器機材の使用、絶縁が低下して漏電が発生した場合は、その欠陥箇所が加熱し、またはショートして発火し火災発生の原因となります。*8:p.53

また、出演者は楽屋とステージ間を移動する際に、ケーブルに躓いたり、楽屋で使ったドライヤーやアイロンなどの電気器具がコンセントから抜かれていないおそれがあります。*8:p.52, p.100

ステージ・客席を消灯する「暗転」は目が慣れるまで視界を失い危険なため、転倒などのおそれがあります。

また、舞台のソデも暗いので、注意が必要です。

演出効果をねらって暗くしている場所でも、危険が察知された場合には、即座に十分な作業灯が点灯できるようにしておく必要があります。*8:p.51

このガイドラインには、危機管理として、公演中のアクシデントや地震などの自然災害、火災などの緊急事態に直面した時の安全確保についても詳しくまとめられ、「火災発生時」「地震発生時」「けが人・急病人発生時」それぞれの対処を示すフローチャート例が示されています。*8:pp.108-115

おわりに

上述のガイドブック「なるほどイベント・大会主催者のためのワンポイントアドバイス 運営体制づくり」には、主催団体の安全責任管理について、以下のように書かれています。*2:p.2

小規模なスポーツイベントなどにおいては、ボランティアスタッフや指導者で、事業運営を行うことが多くなります。事故が発生した場合、主催者や指導者が事故を未然に防ぐための注意義務を怠り、主催者の過失があると判断されれば、ボランティアであっても安全管理責任が発生し法的責任に問われることになります。

保険に加入しておくことで、責任の範囲を明確化することができます。

レクリエーションを十分に楽しむためには、運営の注意点を把握し、安全性に留意するとともに、万が一の場合に備えて適切な保険に加入することが必要です。

資料一覧

  • *1
    出所)財団法人スポーツ安全協会「なるほど 指導者・管理者のためのワンポイントアドバイス 日常活動編」(「安全・安心スポーツ」サポートガイドブック シリーズ1)p.1, p.9
    https://www.sportsanzen.org/about_us/grjkkl0000000f3g-att/grjkkl0000000f92.pdf
  • *2
    出所)財団法人スポーツ安全協会「なるほどイベント・大会主催者のためのワンポイントアドバイス 運営体制づくり」(安心・安全スポーツ サポートガイドブック シリーズ3)p.16, pp.4-5, p.7, pp.11-12, p.2
    https://www.sportsanzen.org/about_us/grjkkl0000000f3g-att/grjkkl0000000fa2.pdf
  • *3
    出所)日本スポーツ協会「緊急時の救命処置」p.69
    https://www.japan-sports.or.jp/Portals/0/data0/publish/pdf/h25attext8_p67_82.pdf
  • *4
    出所)総務省「「令和4年版 救急・救助の現況」の公表」p.6
    https://www.fdma.go.jp/pressrelease/houdou/items/99d90c98874f6d85cb4792eeab90ec1533d340b9.pdf
  • *5
    朝日新聞デジタル「展示作品火災で5歳男児死亡、出展者ら6人を書類送検」(2019年3月18日 12時03分)
    https://www.asahi.com/articles/ASM3L3CGRM3LUTIL004.html
  • *6
    朝日新聞デジタル「5歳死亡の展示物火災「予見できた」元学生2人に有罪」(2021年7月13日 12時29分)
    https://www.asahi.com/articles/ASP7F3WBTP7FUTIL00G.html
  • *7
    セコム「独自の視点の安全コラム 月水金フラッシュニュース 学校の文化祭に必要なリスクマネジメントの目」(2010年10月25日)
    https://www.secom.co.jp/flashnews/backnumber/20101025.html
  • *8
    劇場等演出空間運用基準協議会「劇場等演出空間の運用および安全に関するガイドライン―公演に携わるすべての人々に」(2017年)p.42-58, p.53, p.52, p.100, p.51, pp.108-115
    http://www.kijunkyo.jp/img/archives/guideline2017.pdf
筆者プロフィール

横内美保子

  • 博士(文学)
  • 総合政策学部などで准教授、教授を歴任
  • 専門は日本語学、日本語教育

高等教育の他、文部科学省、外務省、厚生労働省などのプログラムに関わり、日本語教師育成、教材開発、リカレント教育、外国人就労支援、ボランティアのサポートなどに携わる。

パラレルワーカーとして、ウェブライター、編集者、ディレクターとしても働いている。

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