「『部活動の地域移行』が始まるけど、うちの子の部活動はこれからどうなっちゃうんだろう？」
「練習場所が変わったり、費用が今までより高くなったりしたらどうしよう？」
そんな保護者の皆さんの疑問や不安を解消するために、今まさに進められている「部活動の地域移行」の現状を知っておくことが非常に大切です。
この記事では、部活動の地域移行という大きな変化の現状について、以下のポイントを分かりやすく解説します。
- なぜ今「地域移行」が進められているのか
- 保護者が知っておきたい4つの大きな現状の課題
- 地域移行がもたらすメリットとデメリット
この記事を読めば、メリットやデメリットだけでなく、家計への影響や安全面で何が変わるのか、部活動の地域移行の現状の全体像をしっかり掴めます。
まずは現状に関する正しい情報を知ることから始めて、これからの変化に備えましょう。
そもそも部活動の地域移行とは？
部活動の地域移行とは、活動の主体を学校から地域の団体などへ移す取り組みです。
ここでは、部活動の地域移行の背景にある現状の課題や、国の基本的な考え方、今後の予定を解説します。
なぜ今「地域移行」が推進されるのか？（背景）
国が地域移行を推進するのには、主に二つの大きな理由があります。
一つは、教員の働き方改革です。
これまでの部活動指導の現状は、教員の長時間労働の主な原因となっていました。
負担を減らし、授業準備といった本来の仕事に集中できる環境を整える必要があるのです。
もう一つは、少子化の影響です。
生徒が減った現状では、学校だけでは部活動を続けるのが難しくなってきました。
専門的な指導者がいる質の高い活動の場を、地域全体で支える仕組みが求められているためです。
スポーツ庁が示す「ガイドライン」の基本的な考え方
国の指針は、2022年12月に策定された「総合的なガイドライン」にまとめられています。
スポーツ庁と文化庁が、運動部と文化部の指針を一つにしたものです。
現状の基本的な考え方は、「地域の子供は、学校を含めた地域で育てる」という理念に基づいています。
少子化が進む現状でも、子どもたちが豊かなスポーツや文化部活動に親しめる環境を整えることを目指しています。
この実現のため、現状では2023年度から2025年度までの3年間を「改革推進期間」としています。
「いつから」本格的に実施される？（スケジュール）
部活動の地域移行は、全国一斉にスタートするわけではないのが現状です。
まず、2023年度（令和5年度）から2025年度（令和7年度）までの3年間が「改革推進期間」とされています。この期間に、主に休日の部活動から段階的に地域移行を進め、2025年度末までに完了することを目指します。
ただし、これはあくまで目標です。現状では、指導者の確保や予算の問題もあり、実際の地域移行の進み具合は地域によって大きく異なる見込みです。
部活動の地域移行における「現状」と4つの大きな課題
部活動の地域移行は制度設計が進む一方、現場の現状は4つの大きな課題に直面しています。
ここでは、地域移行の核心的な現状の課題をデータに基づいて深掘りし、その構造を明らかにします。
課題①：指導者の確保が難しい（量と質の問題）
地域移行における現状最大の壁が、指導者の確保です。この問題は、単に人数が足りない「量」の問題と、専門的な指導ができる「質」の問題が絡み合っています。
スポーツ庁の調査では、自治体の72.0%が「指導者の量の確保」を地域クラブ活動の課題として挙げています。
特に人口が少ない地域では、地域人材そのものが見つからない現状です。一方で、学校の部活動でも顧問の約3分の1が、指導に必要な技能を備えていないと感じていた現状がありました。
専門外の教員による部活動指導（質）の現状を解決しようとした結果、指導者の絶対数が足りない（量）という壁に直面しているのです。
質の高い指導者を地域で見つけること自体が、多くの場所で困難になっているのが現状と言えるでしょう。
課題②：保護者の費用負担が増加する懸念
学校の部活動が地域移行することで、保護者の金銭的な負担が増えるのではないかと心配されているのが現状です。
岡山市の調査では、保護者の4割以上が、費用の上限を月額1,000円程度と考えています。
一方で民間のスポーツクラブでは、週1回の活動（月4回）でも月額5,000円以上かかる例が少なくありません。さらにユニフォーム代や用具代、遠征費なども別途必要です。
また、専門的な指導には報酬が必要で、その分が月謝に反映されることも想定されます。金額が上がれば、家計には無視できない影響が出るでしょう。
結果として、経済的な理由で、部活動への参加を諦める子どもが出てくるかもしれないのが現状です。
※参照 岡山市部活動地域移行に関するアンケート調査結果
https://www.city.okayama.jp/kurashi/cmsfiles/contents/0000059/59824/gaiyou.pdf
※参照 令和３年度 地域運動部活動推進事業 アンケート調査結果 | 福井県
https://www.mext.go.jp/sports/content/20220324-spt_sseisaku02-1405721_047.pdf
課題③：地域や種目による「受け皿」の格差
地域移行先となる地域クラブ（受け皿）の整備の現状が、地域や部活動の種目によって大きく異なる問題も深刻です。
都市部では既存のクラブが受け皿になり得ますが、地方、特に過疎地域では団体そのものが存在しないこともあります。
活動場所が遠くなれば、保護者の送迎の負担も大きくなります。
また、競技人口が多い種目はクラブを作りやすい一方、少ない種目は運営が困難です。
学校では存続できていたマイナーな活動が、地域移行によって存続の危機に立たされる可能性があります。
子どもたちが選べる部活動が、住む場所や種目の人気に左右されてしまう現状は大きな問題といえます。
課題④：安全管理や事故発生時の責任の所在
部活動の運営が学校から地域クラブへ移ることで、安全管理や事故が起きた際の責任の所在が変わります。
学校管理下での活動ではなくなるため、日本スポーツ振興センター（JSC）の災害共済給付（賠償責任は対象外）の対象外となるのが大きな変更点です。
地域クラブは、独自に民間のスポーツ安全保険などに加入し、万が一に備える必要があります。この事務的・金銭的な負担が、クラブ運営のハードルを上げている現状です。
また、責任の範囲は以下のように多岐にわたります。
- 練習中の怪我
- 移動中の事故
- 熱中症など
誰がどこまで責任を負うかが曖昧なままでは、指導者も安心して指導にあたれません。公立学校の教員と異なり、指導者個人が責任を負う可能性も生じるためです。
この責任の重さが、指導者のなり手を減らす要因にもなっているのです。
部活動を地域移行するメリットとデメリット
部活動の地域移行は、教員の負担軽減や少子化対策として期待される一方、関係者に新たな課題をもたらす可能性もあります。
ここでは、その主なメリットとデメリットを整理して紹介します。
主なメリット
地域移行によって、特に「教員の負担」と「生徒の活動機会」という長年の課題が、大きく改善する可能性があります。
教員のメリット | 負担が軽くなり業務の質が向上する
教員の視点では、まず大きな負担軽減が期待されます。休日の指導や大会への引率などを、地域の指導者が担うようになるためです。
その結果、これまで負担となっていた時間を、授業の準備や生徒と向き合う時間にあてられるようになるでしょう。
生徒のメリット | 活動の選択肢が増え、専門性が向上する
生徒にとっては、活動の幅が広がる点が大きなメリットです。少子化で人数が集まらず、学校単位では難しかった活動も、地域全体で募集することで可能になるかもしれません。
また、地域の専門的な指導者から直接教わる機会も増えると言えます。専門外の教員が指導するケースも減り、生徒が技術を伸ばしやすい環境が期待できます。
主なデメリット・懸念点（生徒・保護者）
一方で、これまで学校が担ってきた役割が失われることで、特に生徒や保護者には新たな負担や心配事が生じる可能性が指摘されています。
保護者の懸念 | 経済的・時間的負担が増える
特に保護者にとっては負担が増える可能性があります。
最も懸念されるのは、経済的な負担です。指導者への謝礼や施設利用料などで、活動が実質的に「有料化」するケースが想定されるためです。
これまで公費で支えられてきた部分が、「受益者負担」に変わる可能性があるのです。
その結果、家庭の経済状況によって、参加できる活動が限られてしまう恐れがあります。また、活動場所が学校外の施設になると、送迎の負担も課題と言えるでしょう。
生徒の懸念：環境の変化と指導への不安が生じる
生徒にとっては、学校との一体感が失われることも懸念されます。
部活動が果たしてきた、友人関係を築く「居場所」としての側面が現状より弱まるかもしれません。
さらに、学校の管理から離れることで、勝利を優先しすぎる指導が行われないか、という点も心配されています。
山積する課題への「解決策」と今後の展望
部活動の地域移行の現状は課題が山積みですが、国や自治体は対策を進めています。
ここでは、指導者不足、費用負担、地域格差という3つの課題に対する具体的な解決策を見ていきます。
指導者不足への対策（人材バンク・研修制度）
部活動の地域移行で現状最も深刻な「指導者の量の確保」に対し、各都道府県で人材バンクの整備が求められています。
人材バンクとは、スポーツ指導の資格を持つ人や退職した教員、専門知識のある大学生、部活動指導員などを事前に登録し、地域クラブの要望に応じてマッチングする仕組みです。
さらに、指導者を見つけやすくするだけでなく、指導の質と安全性を確保する研修制度も充実してきました。
研修では、技術指導の方法に加え、中学生の成長段階に合わせた接し方、健康管理、体罰やハラスメントの防止、緊急時の対応などを学びます。
費用負担の軽減策（補助金・受益者負担のバランス）
部活動を受け持つ地域クラブの運営費用は、利用者が負担することを基本としながらも、家庭への過度な負担を避けるため、公的支援とのバランスが重視されています。
国は「地域スポーツクラブ活動体制整備事業」などを通じて、以下を補助しています。
- 指導者への謝金
- 事務局の運営費
多くの市区町村も独自の補助金制度を設け、以下などを支援しています。
- クラブの設立費用
- 用具の購入費
- 会場使用料
経済的な理由で活動に参加できない生徒が出ないよう、就学援助を受けている世帯などを対象に、地域移行に伴い新たに必要となる会費等の一部または全額を補助する制度も整備されています。
地域格差の是正策（広域連携・オンラインの活用）
少子化により単独の学校や市町村ではチーム編成が難しい場合や、専門指導者が見つからない地域でも活動機会を確保するため、新たな方策が進められています。
その一つが、近隣の市町村が共同でクラブを運営する「広域連携」です。
複数の自治体が連携することで生徒数を確保し、単独では存続が難しい競技の部活動の場を現状維持できます。
指導者不足を補うもう一つの柱として、ICTを活用したオンライン指導の導入も進んでいます。
大学やトップアスリートが遠隔で専門的な指導を行う実証事業も始まっており、地理的な制約なく質の高い指導を受けられる手段として期待されています。
部活動の地域移行に関するよくある質問（Q&A）
ここでは、部活動の地域移行の現状について、保護者や生徒の皆様からよく寄せられる疑問点にお答えします。
Q.部活動の地域移行に「反対」の意見も現状多いようですが、主な理由は何ですか？
主な理由は、保護者の負担増と環境変化への不安です。具体的には、会費などの「経済的負担」や「送迎負担」の増加、指導の質・安全管理への懸念が挙げられます。
また、家庭環境や地域による活動機会の「格差」拡大を心配する声もあります。
Q.地域移行したら、学校の先生はもう教えてくれないの？
必ずしもそうではありません。指導を希望する先生は、教育委員会の許可と「兼職兼業」の制度により、地域クラブの指導者（有償またはボランティア）として関わることが可能です。
Q.地域移行先のクラブが見つからない場合、その部活動はなくなってしまう？
地域移行は、活動の「受け皿」となるクラブの整備が前提です。しかし、指導者や場所の確保が難しく、受け皿を維持できない地域も想定されます。その場合、活動の継続は困難になり、事実上その部活動がなくなってしまう可能性は否定できません。
まとめ
この記事では、「部活動の地域移行」の現状と課題について解説しました。
教員の負担軽減や専門的な指導の確保といった、メリットが期待されています。
その一方で、指導者不足、保護者の費用負担の増加、地域や種目による格差など、解決すべき多くの課題が山積しているのが現状です。
この改革は、地域によって進み方や対応が大きく異なります。まずは、お住まいの自治体がどのような方針で進めているのか、最新の情報を確認し、これからの変化に備えることが重要です。
